土曜日にサンパウロ市セー広場の周辺に人だかりができていたらなんらかの事件が起きたのか、そうじゃなければ町に突如として現れる大道芸人の仕業である。全身に金箔を塗り銅像に成り済ましている芸人のすぐ横で、おもちゃの手を使ったなんだかよく分からない手品を見せる手品師がいる。そうかと思えばそのすぐ後ろではダンサーを引き連れたハスキーボイスの歌手がどこかで聞いたことのある歌を熱唱している。芸風こそ人それぞれだがレベルは正直あまり高くない。ブラジル人はまだ芸が完成していない状態でも平気で人前に出てしまうほどの強心臓の持ち主でその反面見るに耐えないパフォーマンスを頻繁に目にする。じっと固まっていられない銅像もいれば音痴でリズム感のない歌手やダンサーもいる。覚えたてのジャグリングを道路で披露している子供も多い。要するに小遣いが稼げればいいのである。

ときどき動く銅像 こちらは普通に動きまわる銅像 ブラジルのモー娘。?は動きがバラバラ

 そんな素人が多い中、いつどこで見ても一際スキルが飛び抜けている“本物”がいる。パンデイロのリズムに乗せた即興ミュージックの歌い手ヘペンチスタ(repentista)がそれである。彼らが繰り出す音楽はヘペンチ(repente)と呼ばれ、一定のリズムに従ってその場で歌詞を創ったり、韻を踏んだりするのが特徴で見物人にちなんだネタで笑いを取ったり、二人組みで言葉の掛け合いを行ったりと頭の回転が相当速くないとできない一芸だ。ブラジル流フリースタイルラップともいうべきこの音楽をマスターするには長年に渡る訓練が必要なためかヘペンチスタのほとんどはいい歳をした腹の出たおやじたちである。そんな中年ストリートパフォーマーが奏でるメロディーはしかし多くの人の心を掴んでは離さない。彼らが行くところには必ずたくさんの見物人が集まり、現場は幸せな笑いで包まれる。銅像芸やパントマイムなどは所詮欧米のパクリだが、こちらはブラジルの伝統芸である。ろくに練習もせず街角デビューしている若造たちなんぞおやじたちの足元にも及ばない。

“プロ”の前にはこれだけの人だかりができる