傘売りのプロたち
 サンパウロでは雨が降ると、どこからともなく傘売りが駅前や道端に現れる。なぜか傘売りの大半は男である。年齢層は若すぎもせず、かといってそれほど年寄りでもない中年がほとんどだ。彼らのプロフィールはいいとして、雨がポタポタと降り出してからものの数分の内に“現場”に到着する彼らの身のこなしが不思議でならない。遅くても10分、早いときは3分足らずで来る。普通の人だったら30、40本の傘をかつぎながらあれほど早く移動することは不可能である。あの人たちは普段から天候を伺いながら近くでスタンバイしているのか、あるいは駅の周辺に家を借りて雨が降ってきたら息子が昼寝しているお父さんに「とうちゃん、降ってきたよ」と伝えているのかその辺の事情は謎である。

 もしかしたらブラジルには雨の日に傘だけを売って生活しているその道のプロがごろごろいるのではないかと、ふと想像してみた。そんな人たちがいるとすれば、きっと彼らには、まだ10代後半の若い弟子がいて技術とセオリーに基づいて傘売りのノウハウを仕込んでいるのだろう。プロたちは長年の経験から天気予報などを一切あてにせずにいついつの何時に雨が降るということを完璧に把握しているに違いない。朝起きてまずやることといえば空を見上げることで、さすがにベテランともなれば一瞥しただけで全てを理解し「おい、今日は4時26分に仕事に出るからそれまでに全部用意しておけ!」と、弟子に忠告しておくのではないだろうか。万が一そんな世界があったらそれはそれでロマンと男気溢れる職人の世界である。

 傘売りの実態がどうであれ彼らの早業を見るのはとても気持ちがいい。実際彼らが早く来てくれるおかげでたくさんの人が足止めを食わずに済む。そして早いサービスに出会うことなどほとんどないブラジルにおいてそれは大変貴重で評価されるべきサービスなのである。そう考えると、彼らが傘の販売におけるプロであるといっても一概に嘘ではないだろう。ただひとつご注意願いたいのは、彼らはあくまでも傘“売り”のプロであって傘“作り”のプロではない。彼らが売っている傘のほとんどは2、3回使っただけで壊れるひどい代物で残念ながらブラジルにはその道のプロはいないみたいだ。