サンパウロで道を歩いていると、行き交う歩行者がよく体に接触してくる。ちょこんと触れてくるのは日常茶飯事で、普通にぶつかってくるときも多々ある。電車に乗っていても他の乗客が体に触れてくることがよくある。ドア付近に陣取っていると、乗り降りする乗客に軽くタックルされることはまず避けられない。ラグビー選手並の体当たりをしても彼らは全く平気な顔で人混みの中に消えていく。それでも決して怒ってはいけない。なんせブラジル人の距離感は日本人のそれに比べるととにかく「近い」のだから。

 いや、ともともと距離感などというコンセプトを持っていないのではないのかと思うときさえある。自分の四方に想像上のラインを引いて、ここからここまでが私のスペースでここからここまでがあなたのスペースですよ、という感覚がないからこそ、ぶつかって初めて他人の領域に入ったことに気づくのではないだろうか。だとすれば中には肩がぶつかっても、人の足を踏んでも罪悪感ゼロでやり過ごせる鈍感な人がいても不思議ではない。

 ブラジル人は車の運転においてもやはり「近い」。走るときもスレスレを通るし、駐車するときも前後の車にくっつかんばかりに停めている人が少なくない。想像上のラインはともかく、実在する車線すらあまり重要視されていない。横断歩道も同じことがいえる。駅のホームではかなりの割合の人たちが黄色い線の外側に立っている。要するにラインはあってないようなものなのだ。ラインが守れないとなれば距離感に疎いのは当然である。平日のサンパウロを1日中歩き回って誰ともぶつからずに済んだら、かなりの強運の持ち主だと思っていい。

ギリギリ駐車は当たり前 危ないので黄色い線の内側に立ちましょう